第25回:
憲法改正はどこへ消えたのか
2008.05.08
福田内閣の支持率はついに20%を割り込み、毎日新聞調査では18%にまで落ち込んだ。衆参ねじれ構造によって、国政が機能不全に陥っていることが最大の要因であることはいうまでもないが、もうひとつ、福田首相に「保守政権のこころざし」が希薄であることを指摘しないわけにはいかない。
あの小泉元首相は靖国参拝を続け、中国との関係悪化を招いたが、保守層にはきわめて強烈にアピールしたことを想起したい。総裁選で地方票をごっそりとかき集めたのは、靖国参拝公約がなかったら、あれほどの熱狂的支持にはつながらなかったに違いない。保守層にとって靖国は特別の存在なのだ。
福田首相はその保守政権本来の基本スタンスを示しえていない。靖国参拝について、「人の嫌がるようなことはしない」としれっと述べたあたりに、福田首相のリベラル的体質が象徴されている。
憲法改正問題にほとんど関心を示さないのも、そうした感覚のあらわれだ。安倍前首相が進めた集団的自衛権の見直しもあっさりと棚上げしてしまった。5月3日の憲法記念日がほとんど盛り上がらなかったのも、突き詰めれば福田首相の基本スタンスに起因している。
憲法をめぐる1年前のあの高揚感はどこへ消えたのか。安倍前政権下では長年の懸案であった国民投票法が成立した。3年間は改正の発議を封印し、その間、衆参両院の憲法審査会で憲法問題をあらゆる角度から議論していくことになっていた。
だが、憲法審査会はいまだに本格始動していない。民主党は「論憲」の立場を取り、かつての野党イコール護憲派のイメージを払拭した。政権を目指す以上、憲法改正で前向きの姿勢を取らない限り、とてもではないが政権担当能力は持ちえないといっていい。
ところが、現在の民主党はねじれ国会での攻防戦を最優先させ、「拙速の憲法改正論議は避ける」というのが基本姿勢だ。民主党内には護憲派も存在していることから、この問題を突き詰めると、党内に亀裂が生じかねないという危惧もあるのであろう。
こうした状況によって、改憲論をリードしてきた読売新聞の世論調査で不可思議な結果が出た。3月に行った調査で、改正賛成派が42・5%、反対派が43・1%と、わずかながら反対派が上回ったのである。読売によると、1981年から実施している「憲法世論調査」では、93年以降、一貫して改正派が反対派を上回っていたのだが、逆転してしまったのだ。
ところが、護憲派の筆頭格である朝日新聞の調査では、9条改正については、反対が66%で賛成の23%を大きく上回ったものの、憲法全体については、「改正が必要」とする回答が56%、「必要ない」が31%だったという。
こうした不可解な「ねじれ」が生じたのは、福田政権が憲法問題にきわめてあいまいな姿勢を取っているため、国民の間に憲法感覚の分断現象とでもいうべき状況が生じてしまったということではないか。これは、今後の憲法論議を考えると、不幸な方向といわなくてはならない。
護憲派ないしは改正慎重派と見られている朝日、毎日、東京各紙の5月3日付社説を見ると、奇妙な同一認識が浮かぶ。毎日の見出し「生存権の侵害が進んでいる」に、それが象徴されている。
つまり、ワーキングプア、新貧困層の出現という「格差問題」を取り上げ、これは現憲法が想定した人権尊重意識にはそぐわないといった論旨を展開し、現憲法が追求する理想を生かす努力をせよ、と求めているのだ。
そのことを100%否定するつもりもないが、憲法改正が求められた背景として、国際情勢の変化、日本の国家としての成熟といった重いテーマが存在していたことを忘れるべきではない。
たしかに格差問題は深刻なのであろうが、これと憲法改正反対論を結びつける論調には、危うさがつきまとう。自衛隊の海外派遣や国際貢献をめぐる憲法論議など、肝心なポイントが吹き飛んでしまう恐れがあるからだ。
憲法改正の発議は衆参両院の3分の2の賛成が必要だ。今後の政界再編がどう展開するかはひとまず脇に置くとして、基本的には自民党と民主党が同じ土俵に乗らなければ、憲法論議の深化は望むべくもないのである。
民主党は政権奪取を目指すとする以上、憲法問題で歩みよるべきだ。憲法審査会の本格論議が展開されていく中で、民主党の政権担当能力が試されるはずである。
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