実に絶妙のタイミングのご慶事発表であった。
私自身を含め、わが国で保守主義を任ずる人士にとって、皇室の問題は政策論争の次元をこえ、自分なりの?確固たる信条?にこだわり、「何はさておき」、「身命を賭してでも」という議論になりがちである。
そういった保守主義者の陣営が真っ二つに分かれ、今国会最大の政争が勃発しかかっていた矢先に飛び込んできた紀子さまご懐妊の一報は、まさに値千金、みごとな冷却剤の役割を果したのである。
この上は、今秋、無事健やかなお子様のご誕生を切に祈りたい。
残されたままの皇室危機
ただそうは言っても、今回のご慶事によって問題がすべて解決される訳ではない。
仮に男子がお生まれになれば、現典範に則って、皇太子殿下・秋篠宮さまの次の世代の継承者がお一人できたことになるが、急速に皇族、宮家が減少して行くという根本的な皇室の危機は、厳然たる事実として残ったままである。
戦後、直宮に限定された三宮家のうち、秩父宮家・高松宮家はすでに廃絶され、三笠宮家の後嗣である長男寛仁親王様と、三男故高円宮様の両家には、合わせて五人のお子様がおられる。
しかし、すべて女子(女王)だから、やがてご結婚され、皇籍離脱されるのは時間の問題である。
そうなると、秋にお生まれになる紀子さま第三子の世代には、皇族は皇太子殿下と秋篠宮様の二家に縮小、しかも愛子さまと、秋篠宮家の眞子さま・佳子さまはお三方とも女子(内親王)なので、現典範のまま進む限り、第三子の性別如何で皇位継承者がお一人かゼロという事態に立ち至らざるをえない。
これは皇室の存続にとって大変な危機である。
こういった皇位継承の危機にあたり、とくに男系継承絶対を主張する人達から、問題解決の切札として期待されているのが、旧宮家の皇族復帰である。
即ち、今から約六十年前、GHQの圧力によって臣籍(民間)に降下された十一の旧宮家を皇籍に戻そうというものである。
しかし、果してそんなことが可能なのであろうか。
答えは限りなく「否」である。
以下、その困難なゆえんを三点にわたり検証してみたい。
重要な皇室伝統「君臣の別」
まず一つは、旧宮家の皇族復帰が、これも男系継承と並んで皇室の最も重要な伝統としてある「君臣の分」、「君民の別」という大原則に反することだからである。
よく「万世一系」という言葉を、一二五代にわたり男系で継承されてきたことと同義に解する向きが少なくない。
このような解釈がされるようになったのは、明治典範の制定前後からである。「万世一系」という表現自体、明治初年に岩倉具視あたりが初めて用いたものといわれているが、それは本来、男系に限られるものでなく、「皇統に属する皇族による継承」と、ゆるやかに解釈するほうが自然である(所 功氏「?万世一系の天皇?に関する覚書」)。
わが国の皇室は、中国のような王朝の交替による「易姓革命」が一度もなく、大和朝廷以来の同一皇統によって皇位が連綿と継承されてきた。
その間に、「君臣の別」が、厳しく守られ、臣下の者が皇位につくことを厳しく排除してきた。
わが国で一たん臣籍に降った方が再び皇籍に戻り即位された例は、九世紀末の第五十九代宇多天皇のみである(次の醍醐天皇は、父君の在野三年間に生まれ、その即位後に親王となり皇太子に立てられた)。
だから、明治の典範義解でも「悪例」とみなしている。
また第二十五代武烈天皇崩御後、はるか遠縁から男子をさがし出して男系維持をはかった継体天皇も、約二百年さかのぼった応神天皇の五世王であり、臣下に降っておられたわけではない。
そのような意味で六十年も前に皇籍離脱された旧宮家の皇族復帰を図ろうとするのは、この「君臣の分」、あるいは「君民の別」という皇室の大原則に反するのである。
旧宮家の意向と選別
ついで二つ目に、六十年前の皇籍離脱は、GHQの強制という未曽有の事態によるものだから、例外として扱うべきだという主張がある。そこで、仮にそれに従うとしても、復籍はすべての旧宮家に認めるのか、一部の家系に限るのか、その選別基準が難しい。
変動の激しい戦後社会で、六十年という歳月は随分長く、世代はすでに三世代目に入っている。
この間に、当時の十一宮家のうち、現に男系男子がおられるのは五家にすぎない。
そのうち、復帰に同意される方が何人おられるのか。
さらに各々の家系の六十年間の私的な行状調査を、すべて克明に行わねばならない。
ちなみに最近、強く女系天皇反対論を主張している旧宮家末裔の某氏は、フセイン大統領に招待されてイラクへ行きアメリカ参戦に反対する運動をしたといわれているが、こういった方を、中立公正であるべき皇族として復帰を認め難いのは、申すまでもない。
難しい国民の支持
さらに三つ目は、当然予測されることとして、国民の支持を得ることが、極めて難しいという点である。
憲法の規定を引くまでも無く、皇位は「国民の総意」に基づかねばならない。
その総意は100%でないにせよ、現存国民から少なくとも三分の二以上の支持を得ることが求められよう。
しかし、大半が一般人と同様の生活を送って来られた旧宮家の子孫を、皇族として認める国民は三分の一もいないであろう。
この推測は、今後の天皇として女性も女系も支持する世論が七・八割に達するという調査結果から成り立つにちがいない。
わが国の一般社会では、娘しかいない家に婿を迎えて血統と家職を継承することが長らく行われてきたから、皇室が女系となっても皇統と皇位が続くと考えるのは、むしろ当然であろう。
皇室の永遠の存続こそわれらの願い
もちろん私も、男系継承の慣習は可能な限り守りたいと考えている。
そのための一方策として、女性皇族と旧宮家子孫のご結婚が考えられる。
旧宮家の方々の皇族復帰は、先に述べた通り極めて困難であるが、女性皇族の入夫として皇族となってもらうことは可能であろう。
従って私の結論は、有識者会議の報告を参考に現皇室典範を改正し、女性皇族にも女系子孫にも皇位継承の範囲を拡げる。
また女性宮家の創設を認め、その配偶者にできる限り、旧宮家の男子を迎える。
もとより婚姻について強制は許されないが、皇族のご結婚には、一般人と自ずから異なった配慮がなされてしかるべきであろう。
角を矯めて牛を殺すの愚を犯してはならない。
側室の庶子まで認めて維持してきた過去の慣習にとらわれ、男系男子限定主義を墨守している間に、皇室が自然消滅するような事態を招いては、断じてならない。
世界に冠たるわが皇室の永続こそ、われらの願いである。