憲法記念日前後に多くのメディアで改憲や9条に言及する記事があった。その中で目立ったのは、世論調査で軒並み改憲賛成派が反対派を大きく上回ったことだ。しかし、それらの世論調査で憲法改正賛成派が50%を超えても、9条改正派は反対派を下回っている。
これは不思議なミステリーではないだろうか?
街頭でアンケートを取った場合、憲法改正に賛成か反対か訊けば、ほとんどの人は憲法改正=9条改正と思うはずだ。というのも、憲法改正反対派がこの半世紀以上掲げてきた言葉が「平和憲法を守れ!」というスローガンであり、憲法改正=9条改正であることは普通の日本人にとって当たり前すぎる前提だからである。
新聞、テレビなどの一般メディアが憲法改正について世論調査を行う場合でも、調査に答える人も例外ではないはずだ。では、なぜ、一般メディアの憲法改正世論調査で、改正賛成派が多数になるのに、9条改正賛成派が少数になってしまうのであろうか?
そういった典型が朝日新聞の調査だ。朝日は5月2日にこのような記事を掲載した。
《「憲法第9条は平和に貢献」78% 朝日新聞世論調査
3日で施行60年を迎える日本国憲法。朝日新聞社の全国世論調査(電話)で、憲法第9条が日本の平和に「役立ってきた」と評価する人が78%を占めた。憲法改正が「必要」と思う人は58%にのぼるが、改正が必要な理由を聞くと「新しい権利や制度を盛り込む」が8割に達する。自衛隊を「自衛軍に変えるべきだ」は18%にとどまり、自民党がめざしている改憲の方向と民意との開きが目につく。安倍政権のもとでの憲法改正に「賛成」は40%、「反対」は42%で二分された。
調査は4月14、15の両日、内閣支持率などと同時に実施した。
憲法改正を巡っては、自民党が05年に、9条を改正して「自衛軍」を持つことなどを盛り込んだ「新憲法草案」を発表。安倍首相は「自分の政権での改憲」をめざし、7月の参院選で憲法問題を争点とする構えだ。》
この記事によれば、護憲勢力最大のイデオローグである朝日でさえ、《憲法改正が「必要」と思う人は58%に》上っているのだ。しかも、安倍政権下での《憲法改正に「賛成」は40%、「反対」は42%で二分された
》ことになっている。戦後体制からの脱却を政策の一義的な目標にしている安倍内閣が9条改正を目指しているのは自明の理である。そのような背景での改憲に拮抗した調査結果が出されている。にもかかわらず、9条に絞る質問の場合は以下のような結果になる。
《9条を「変える方がよい」は33%で、「変えない方がよい」の49%を下回る。自衛隊の存在を憲法の中に書く必要が「ある」は56%。しかし、「自衛隊を自衛軍に変える」ことへの支持は18%で、「自衛隊のままでよい」が70%にのぼった。9条を「変える方がよい」人でも、「自衛隊のままでよい」が52%と過半数だった。
調査方法が異なるが、憲法改正について「必要」と思う人は昨年4月調査(面接)で55%、05年4月調査(同)で56%。9条が日本の平和に果たした役割も、昨年4月調査で74%の人が評価している。改憲志向と9条への評価が共存する民意の状況が続いている。》
世論調査が様々な方法で行われ、誘導尋問をするような手法があることは知られているが、憲法9条に関する調査結果には疑問符がつく。何らかの誘導が行われているのではないかという疑問である。
しかし、5月5日放送された「日本文化チャンネル桜」の討論会に出席したとき、「チャンネル桜」で街頭インタビューを行ったときも、9条改正反対派が多数を占めたという話を聞き、朝日、毎日などの世論調査も情報操作されていない可能性もあるのだ。だが、それでも、朝日の調査にある《安倍政権のもとでの憲法改正に「賛成」は40%、「反対」は42%》という結果と、《9条を「変える方がよい」は33%で、「変えない方がよい」の49%》という結果に明らかな矛盾がある。
昨年、9条改正反対派の牙城である「9条の会」が中心となる「9条マガジン」がネット上で行った世論調査では、9条を変えるが77%の賛成票を集める皮肉な結果になっている(http://www.magazine9.jp/vote/index.html)。
しかも、9条を変えるは2つの選択肢があり、1《自衛隊を「自衛軍」にして海外派兵(集団的自衛権)も可とする自民党の改正草案に賛成》、2《わが国は独立国なのだから、戦後60年を過ぎてなお在日米軍の抑止力をアテにして米軍基地を受け入れている現状は情けない---したがって、国の安全は自主独立の軍隊で守っていくことを9条に明記すべきだ》が、それぞれ、44%、33%の支持を集めているのだ。
この世論調査には余談があり、ネット上で多重投票も可能なので「9条マガジン」編集部が投票を調べたところ、何と護憲派からの多重不正投稿が多く発見され、これでも修正されたデータであるというオチがついた。
しかし、ここで注目するべきは、護憲派である「9条の会」が母体となってネット上で「9条マガジン」(http://www.magazine9.jp/index.html)を運営していることだ。改憲派はいったい何をやっているのだろうか? しかも、世論調査の不正を糾し、正確なデータを公表するフェアさまで「9条マガジン」は持っているのだ。
改憲派は現在、様々な憲法草案を発表している。自民党案、超党派の国会議員や文化人が集まる民間臨調の草案、さらに日本青年会議所の憲法草案と百花繚乱だ。だが、自民党の改憲草案にしても、前文や文章そのものに大きな疑問が残り、大きな隔たりが各草案に見られる今、改憲派の憲法の文言による一致は至難の業である。オピニオンリーダーたちの動きに比べ、「9条マガジン」に見られるような一般国民への広報体勢、パブリシティー能力も非常に立ち遅れているような気がする。
したがって、ここで、重要なのは、何が改憲に求められているのかという基本に発ち返ることであり、自主憲法制定という理想から一歩後退しても、まず9条2項削除という作業だけに的を絞った活動をすることではないだろうか? と同時に、96条の改正も必要になるが、まず <9条2項削除> という戦略目標を掲げることで、メディアの世論調査に見られる「9条をめぐるミステリー」の謎を解くことが急務なのではないだろうか?